食器や根付など、木製や紙製の日用品から高級品に漆を塗り重ねて作られた漆器の工芸品や高級な美術品は、日本をはじめとして、東アジアや東南アジア、南アジア地域などにもみられます。
ウルシの木から取れる樹液を加工した漆は、天然樹脂の塗料や、漆工などに利用されるほか、接着剤としても利用されています。
漆は、塗料として用いられることが最も一般的で、現在の工芸品では輪島塗などの漆塗りの食器が有名で、藍胎漆器や彫漆などもあります。
日本で使用される漆の起源とされる縄文時代の漆器について紹介します。
縄文時代の漆器が出土した北海道垣野ノ島遺跡
日本をはじめとして東アジア、東南アジア、南アジアで広く使われる漆器ですが、日本では北海道垣ノ島遺跡の副葬品にみつかった漆器から、縄文時代早期から漆の技術が存在したと考えられています。
今から約9000年前の縄文時代早期の北海道垣ノ島B遺跡からは、漆を塗った赤い糸で編んだ装飾品が発見され、中国で発掘された漆椀よりも古い世界最古の漆工芸品です。
また、垣ノ島遺跡Aからは、縄文時代後期に作られた注口土器が完全な状態で出土していて、土器の表面は黒漆の上に赤い漆が塗られた朱漆色で、祭祀用の酒を注ぐために利用されたと考えられています。
現在つくられる漆器の多くが、黒く塗られることが多いのですが、縄文時代につくられた漆器は亀ヶ岡土器などに見られる「赤」が特徴となっています。
赤漆が特徴的な縄文時代の漆器
世界最古の漆の利用が、北海道垣ノ島遺跡で確認されていますが、赤漆を巧みに利用した工芸品には、縄文時代後期につくられた亀ヶ岡式土器に数多くあります。
漆そのものには色がないため、旧石器時代から使われていた赤い色素をもつベンガラを混ぜて、縄文時代の漆の着色に使われています。
ベンガラは、北海道では墓の中にまかれた痕跡が確認され、縄文時代の人々にとっては馴染みのある顔料といえ、青森の三内丸山遺跡からもベンガラの小さな塊が出土しています。
現代の日本でも輪島塗などの伝統工芸となっている漆器は、縄文時代にはすでにベンガラという顔料を利用して、「赤」という印象的な赤漆が利用されています。
現代でも利用される漆の起源は、縄文時代?
輪島塗などで有名な漆器に利用される漆は、ウルシの木から取れる樹液を加工し、木、紙、金属などの素地に塗料として塗られ、表面の光沢や強度を高めるために利用されています。
漆器は、日本をはじめとしたアジアの広い地域で利用されていて、北海道垣ノ島遺跡からは世界最古の漆塗りの注口土器が発見されていて、縄文時代にはすでに漆が使われていた痕跡がみつかっています。
現在でも普段使いの食器として使われる漆器には、漆がもつ断熱性や耐久性が活用され、多少注意する点はあるものの、他の食器と同様の扱いが可能です。
天然素材に着目した商品開発が行われる現代ですが、漆という天然素材を塗料や接着剤に利用した縄文時代が原点と言えるかもしれません。